初っ端から銀行強盗事件

第一章 〜IN 学校〜  一節


「ねぇ、ねぇ! コウくん、今日の放課後、空いているよね?」
「なに!? そうなのかスイ! よし、遊びにいこうぜっ」
「ちょっと、僕が先約なんだよ! 潤は黙っていてよ」
「いいじゃねぇか、そんなん。なあ、皆で遊ぼうぜ! 行きたいとこは、漠の好きなとこでいいからさっ」
「そういう問題じゃないの!」
「…………」
 当の本人を抜きに勝手な言い合いを始める二人。
 昼休み。獅童達は相も変わらず教室で昼ご飯を食べていた。
 獅童個人としては一人で食べるのが楽なのだが、なぜかこの二人は獅童の行く所何処までもついていき、当然のように隣に座る。
 今日も最初は席の取り合いから始まっていた。というか早い者勝ちみたいなものだった。
 潤一郎の方は窓際の最後尾にいる獅童のすぐ前にいるので、教室では常に彼が机を獅童の席にくっつけ、正面をとっている。
 それに負けじと獅童より二列前方の漠は、机をわざわざ運び彼の机の右にくっつけて、いつも食べていた。
 アンバランスな光景に周囲から奇妙に見られていることを認識している獅童だが、注意しても我が道を行く友には無意味なことだった。
 獅童も獅童で自分に害がないなら、どんなに騒がしくても我関せずという図太い精神を持っているので、ケンカしている二人をよそに黙々と、自炊した弁当を食べていた。
 結局、迷惑を被っているのは、周りのクラスメートとなる。
 しかし、彼らは校内でもある意味有名になっているため、他の生徒になぜか大人気の三人組を注意する人物は、ごくわずかに限られていた。
 その上、この日常茶飯事の風景を見に来る人達で絶えなかった。
 変わり者故に、三人とも気にしてないと言うか、害がないなら大抵のことは、ほかっておくのだった。

「それで、コウくん。今日学校終わったら、遊びにいかない?」
 話を無理矢理戻しにきた漠。
 目がくりっとして、ショートカットより少し長い黒髪、獅童より二十センチ以上も低い背丈のおかげで女の子にも見える彼は、眼鏡越しでもキラキラの瞳をして、獅童に詰め寄る。
 違う方向から見れば、少々間違われそうなぐらいだ。
 一部の女子は嬉しい悲鳴を上げている。
「……別にいいが、潤がいけない」
「いいじゃん。潤なんてほっとけば」
「へ、俺? なんで? いけるよ」
 小さく舌打ちをしている漠をゆっくりと押し戻す獅童。そして意味が分かっていない潤一郎へと億劫に視線を向ける。
「俺、なんか今日あったか?」
「補習だ、今日。前回の期末テストの」
 やはり忘れていたな、と獅童はため息をつく。
 そして隣では、せっかく今まで黙っていたのに、二人っきりになれると思ったのに、と小さく漠はぶつぶつつぶやいている。どうやら確信犯だったようだ。
 しかし、まだわかっていない潤一郎だった。
「テスト……? そんなのやったか?」
「本当、蟻並みの記憶力だね。先週返してもらったじゃん。君が五教科合わせてちょうど百点を取った期末テスト」
「……………………あぁ〜〜! うそ! しまった! 今日なのか 本当に」
「今日の放課後、五時間返してもらえないぞ」
「まじでか 最悪だ〜〜〜〜!!! なんで知ってるんだよ、お前ら〜〜」
 ものの見事に忘れていた潤一郎。
 知っているも何も、潤一郎の袖から覗く腕に本人が忘れないようにと、マジックで大きく書いてあるものを獅童達は見ているだけだった。
 自分の腕に書いてあるものぐらい、気付くべきだと二人は思った。

 獅童の高校は、赤点を取るとみっちり一教科一時間、テストの解説と復習を教師とやる。それこそひどい時は一対一で。
 赤点取る奴は、絶対復習をしないから、とのことらしい。
 ちなみにこの補習をさぼると留年になる。
 補習にでれば獅童達と遊びにいけず、補習にでなければ、来年、獅童達と学年が別れることとなるのだった。
 どちらに転んでも、漠にとって邪魔者が消えるということになる。いや、補習を忘れていた方が最悪な結果なのだが。
 腹黒い……もとい、すばらしい案だった。
「って、漠! お前はどうなんだよ?! 俺と同じくらいの成績いつもとってるじゃないか!?」
「失礼な! 確かに平均点以下ばかりだけど、僕はたまに赤点をとるだけ! それに今回は、この日のために、頑張って赤点一つもとらなかったんだから!」
「……そんな前から、計画していたのか」
 実に凄まじい執念だと、獅童は弁当を片付けながら内心感嘆する。確かにいつも平均点すれすれかそれ以下の点数ぐらいしかとれない漠だが、今回どれも平均点以上だったのを思い出す。立派なのか、不純な動機なのか区別はつかないのだが……。
 いつもそれぐらいの勢いを見せてほしいと思う。

 ちなみに獅童は、常に上位の成績をとっている。
 それ故か、常にテスト前に二人にお願いされて、勉強を教える秀才にとって、潤一郎の成績がもうどうしようもないことは、百も承知だった。
 漠はやる気の落差が激しいのと苦手な分野にめっぽう弱いのに対して、潤一郎は問題を解く以前の問題であり、もうテストどころではないのだ。
「くそっ。クラスと名前を書き間違えなかったら、二教科は大丈夫だったはずなのに!」
「いや、そもそも自分の名前を書き間違えないぞ。クラスはあるかもしれないが」
 どう考えたら、『潤一郎』を『純次老』と書くのか。
「畜生っ、漢字さえ読めれば数学解けたのに!」
「どうして、数学で漢字の問題なのさ!? 読めてよ! 常用漢字!」
 『定規を使って、グラフを書きなさい』の"定規"が読めなくて、さらには"グラフ"の意味もわからず、マスにドット絵を描いて怒られたのだった。
「アラビア語で書かなければ、英語満点だったのに!」
「「英語で書け(いて!)」」
「ひでぇ」
 二人に同時につっこまれ、うちひしがれる潤一郎。
 なぜアラビア語を知っているのに英語が書けないのか……そもそもなぜ、アラビア語を普通に書いてしまうのかという突っ込みもさらっと流す。
 変なことをしなければ、普通にいい成績をとれるであろう潤一郎だった。
 おそらくは、だが。
「ね、だから二人で遊びにいこうよ! あ、苑(えん)ちゃんと一緒でも大歓迎だよ!」
 瞳が期待に輝いている漠をよそに、さて、どうするかと獅童は考える。
 正面でカビを生やした潤一郎に同情しようか、しないかを悩む。
「ところで今日、どこか行きたい所があるのか?」
 承諾するのは、それを聞いた後にしようと結論に至ったらしい。
 その問いに漠は鞄から一枚のチラシを取り出す。
 そこには今日から王将デパートで有名なケーキ店が開店するという、ものだった。
 王将デパートは学校から二駅先の所にある。ちょうど、獅童の通学途中にあった。
「今日から三日間、特別にね、スペシャルケーキが食べられるんだって!」
 甘味大大好きの漠にとって、大変見逃せないものだ。
「まじで! 俺も行きたい〜〜〜〜!!」
 食べることが大好きな、潤一郎も飛びついてくる。しかし、いけないので涙目。
 茶髪でがっちりした体躯の彼が涙目になると、はっきりいって、気色悪いと感じる獅童は少し考え込む。
 獅童はそこまで甘党ではないが、有名店の味は気になった。
(苑にお持ち帰りできるな。)
「三日間。なら、明日でもいいんじゃないのか?」
「!」
「ス、スイ〜〜〜」
「明日は土曜日だが、早めに行って並べば、空いているだろう」
 人ごみが多いのは、極力避けたい獅童。学校の帰りとなると、帰宅帰りによる人達が増えるし、今日開店である。人が多いだろう。
 すると、漠は急いで懐から分厚いスケジュール帳を取り出し、素早くページをめくり、ある所で固まった。
「いえ〜い! 俺は明日、ばりばり空いているぜ」
「…………僕も空いてる。コウくんも、空いてるね」
「あぁ」
 どこでどうやって獅童の日程を調べたのか、そのスケジュール帳には獅童の他にも潤一郎や自分の周囲の人達の予定もびっしり書いてあった。
 悪用しないのは知っているが、さすがにどう調べているのかは、謎だと思う二人。
「せっかく、二人っきりになれるはずだったのに……」
 ぶつぶつと今度は漠が沈む番だった。獅童はそろそろ面倒くさくなってきた。
「ありがとなっ、スイ!」
「感謝する前に、お前は今日の補習の心配をしろ。漠、明日の午後なら、俺の家によっていい」
 漠はがばっと起き上がる。キラキラした目が復活している。
「コウくん、大好き!」
 弁当を鞄の中にしまい、一冊の本を取り出し立ち上がる獅童へと、飛びつこうとする漠をさらりとかわし、教室を出ようとする。
「あ、どこいくんだよ、スイ!」
「図書館」
 一人になりたいという合図。それに二人は何もいわずに、すんなり受け止め送り出す。
「あ、わかった〜。いってらっしゃ〜い」
「次の授業遅れんなよ〜」
 獅童は二人に熱く見送られながら、その場を去ったのだった。

 

 

 
第一章 〜IN 学校〜 二節に続く
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