〜苑のお留守番〜

前編


――某刑務所内
 よ、皆、初めまして。
 こんなむさ苦しい所にわざわざ俺に会いに来てくれて、ありがとな!
 え? そんなわけない?
 またまた、そんな照れなくてもいい。
 モテる男は辛いぜ。
 まぁ、前振りはこれくらいにして、これから俺がなぜこの狭くて侘しい、そして花のない刑務所に入れられたのかその理由を話そう!
 こんなダンディーなおじさんが捕まった理由!(←だれもそんなこと聞いてない
 それは!?
 ……それは……………もう刑期も半ばになってきて、ようやく心が落ち着いた今だからこそ語れる。
 あの身の毛のよだつような、現実とは思えない出来事を…………。

 そう、あれは五年前の春の終わりのとある晩だった――――。

 

***  ***  *** 

 

――五年前 真夜中
 ふっ、俺は泥棒。
 一夜を忍ぶコソドロさ。
 誰もいない家にこっそり忍び込み、金品をガッポリ頂く華麗な泥棒とは俺のこと。
 特技は鍵空けと物音をたてない程、この鍛え抜かれた足だ。幾度となく立派な泥棒になるために『抜き足・差し足・忍び足』を血のにじむほど修練したのさ。いまやプロの域だぜっ。
 そんなわけで、家に人がいても全く気付かれないほどの達人になった俺は、結構な大儲けをしているわけだ。
 まぁ、ほとんどギャンブルにつぎ込むからすぐなくなるんだけどな。
 そして今、金がピンチになってきたので、俺はまた罪を犯す悪循環の始めにきたわけだ。
 一応、罪の意識は感じてはいるが、それ以上に誇りも感じているのさ。
 ほかの悪党と俺様の違いは、ただ、安直に盗もうって考えているわけではないってことだ。
 そこに、泥棒としての誇りがあるかどうかだ。
 愉快や興味じゃない。
 それだけは覚えておいてもらいたいな。
 よい子のみんなでなくても、俺の真似は出来ねえから、試すんじゃないぞ。即お縄が待ってるぜ☆
 そして現在俺は、今回ターゲットになっている家の少し離れた所にいる。
中の様子を伺うときは、あまり近寄っちゃいけねってもんが、鉄則だ。それとなく遠くから見る。これはいろいろな情報を集める時に便利だぜ! 
 じっくりとさっきから、ターゲットの家を観察しているが、今がベストのようだな。
なんてことない、今回の家は無人だからな。
 下調べしたところ、今から忍び込む家は、学生が一人暮らしをしている家らしい。
 かぁ、今時の金持ちはうらやましいねぇ。あんな立派な二階建ての家を子供一人住まわせることができるとは…………俺にも分けてほしいぜ。
 そして、今はその少年が事故かしらで入院しているらしい。何日か張っていたが、本当のようだ。昼は人の出入りはなかったし、夜になっても明かりがつかない。
 今も付いていない。
 これはチャンス!!
 そう考えた俺は今日この家に忍び込もうってわけだ。
 多少盗まれたって、あんま困らないのなら遠慮なく貰っていくのが泥棒よ!!
 では、さっそくレッツゴ―。

 

――カチリ
 鍵が合う音がした。
 ふっ、俺様の手にかかれば、こんな鍵お手の物よ。
 ここが不用心すぎるってのもあるけどな。
 金持ちなんだから、カードキーや電子ロックとかにすればいいのに、普通の鍵穴をただ二つつけているだけ。
 改築とかしないのか?
 ふむ、疑問に思ってもしょうがない、とりあえず中に入ろう。
 至って普通の扉をそっと開ける。
 家の中は、真夜中のせいもあってどんより暗い。
 今夜は月が出ているのだが、それは部屋の中では関係ないな。
 まぁ、俺様は夜目がきくから明かりは必要ないんだけど、この家は誰もいないから、遠慮なく、小型の懐中電灯を照らすとしよう。
 用心をこして弱めにライトを設定する。
 万全の俺様は隣家から見られてもばれない明かりの限度も知っているのさ!

 抜き足差し足しながら、さっそく俺様は金目のものを捜し始める。一人暮らしだけあって、家の中は閑散としている。ほとんど物がない。
 まぁ、探しやすいからいいんだけどな。
 とりあえず、廊下のすぐ右の部屋に入ってみると、そこはリビングとキッチンだった。
 几帳面なのかキッチンの手入れも行き届いている。
 中々の少年だと俺は推測する。
 これが今時の出来る男か……。感心しながら一通り物色して部屋を出る。ここにはあまり金目のものはなかった。
 よし次は、向かいの部屋だ……。
 ん? 視線!?
 俺は急いでキッチンへと戻る。そっと廊下を伺うと向かいの隣のドアが開いていた。
 確かさっきは閉まっていたはずだ。
 まさか、他に誰かいるのか!?
 俺は暫く慎重に気配を探るが、人が動いている様子がない。しかし、現に部屋のドアは開いている。きっちり閉まっていたドアが物音をたてずに開くはずがない。
 細心の注意をはらって周囲に気を配って動いていた俺の遥か上をいく、誰かがいるのだろうか?
 つまり、それは俺と同類の……、先をこされたか?
 俺はもう一度ゆっくりと確認する。
 ドアは開いたまま、微動だにしない。それもそうか。
 この状況で相手も驚いて身を潜めているのかもしれない。この世界に入ってウン十年、こんな奇妙な空気は始めてだ。
 いや、待てよ。
 もし相手は同業者ではなく、この家の関係者だったら?
 俺の姿に驚いて、動けない状態にいるとか?!
 そんなことがあるのかってところだが、わからん。
 うぬぬ、どっちだ??

 相手の姿が見えない状態では何とも動けん。外に出るにしろ作業を続けるにしろしばらく様子を見た方がいいな。  

 

 

幕間1 〜苑のお留守番〜 後編に続く
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