あぁ、あと一時間、このままでいたい。
いや、できればこのままずっとこうしていたい。
こんなこと、もう二度と起こらないかもしれないから。
ドキドキしながら、わたしは、そっと席を立つ。
ドアに鍵を閉めるため。
そーっと扉の外を確認して、閉めようとしたとき、邪魔な奴が来てしまった。
わたしは急いで、外に出て、扉を閉める。
「おい、加代(かよ)。一輝(いっき)はいるか?」
「今、休憩中よ。飲み物買いに行ったわ」
わたしは、軽く伸びをしながら、休憩を装う。
「あれ? でもチャリあったけどなぁ」
こんな時だけ、めざとくなくていいのよ。
早く、どこかへ消えてほしいわ。
「じゃ、お兄ちゃんが見てやるよ」
「結構。一輝に見てもらっているから。間に合っているわ」
「二人で教えれば、お前の頭も少しは良くなると思うぞ」
くそう、くやしいが、兄貴は軽いが頭はいい。
けれど、絶対、今は嫌!!
どうにかしなければ……
「おい、どうかしたのか?」
「なんでもないわ……」
「妖しいな〜。何隠してるんだ〜」
にたりと笑いながら近づいてくる馬鹿兄貴、もう一歩近づいたら、投げ倒そう。
そう考えた瞬間、背後で声がする。
「哲平兄ちゃん。ゲームやろう!」
「おう、起きたのか。いいぞ! やろう! 加代、ちゃんと勉強するんだぞ」
従兄弟の真琴(まこと)の乱入により、兄はそっちのほうに、ベクトルを向けていった。
ナイス。
私は作り笑いを浮かべ、うなずいた。
二人が去ったあと、もう一度周りを確認して、中へと入る。
もちろん鍵を閉めて。
ほっ、大丈夫だった。
机に突っ伏している、従兄弟の一輝。
手には私が書いた答案を持って、うたた寝。
疲れているのに、私の勉強を見てくれた。
こんな嬉しいことはない。
お願いあと少しだけ、このままでいたいわ。
あなたの寝顔をもっと見ていたい。
そのぐらい、許されるでしょう?
了
御題:うれしさ
2011/8/13 彩真 創