いつもの彼。
大好きな彼。
ふたりきりの部屋の中で、よりそって愛を囁く。
彼は私を真っ直ぐ見て、好きだよってつぶやく。
私も。
頬が熱くなるのを感じながら、彼の目を見て言う。彼は微笑んだまま。
でも、その笑顔が少しかげっている。
なぜかしら?
彼は私の手を握り、優しく口付けする。
彼の手が冷たくて思わず、つめたっ、とこぼすが彼は何も言わない。
ふとした違和感。
彼は私を抱きしめる。
でも、いつも感じる彼の愛おしい温もりが全く伝わってこない。
どうして…………?
違和感は不安になる。
好きだよ、○○。
彼は知らない人の名を呼ぶ。
違うわ、私はそんな名前じゃないわ。
突き飛ばそうとした瞬間、私は目を見張った。
私の手は、彼を貫いていたから。
その時気がついた。
彼が私を一度も見ていないことに。
そう、彼が見ているのは、私の後ろ。
振り向いて驚く。その人物は、私によく似た別の女。
わたし、じゃない……。
なんで?!
彼に叫ぶが、彼は私によく似た女の名前を何度も呼ぶ。
好きだと自分に言い聞かせるように。
よく似た女は、そっと私の彼に、私も好き、と囁き、彼の手と自分の手を重ねる。
彼が見ていたのは、私によく似た女。
彼が口づけしたのは、私によく似た女の手。
彼が抱きしめたのは、私ではなく、私によく似た女の体。
呆然と二人を見ているだけの私。
そんな私に、女は微笑んで、口元だけを動かした。
もう彼は私のもの。
あなたはもう、用済みなのよ。
その瞬間私の体を闇が纏い始めた。必死に手を伸ばす、抗う。
必死で彼の名を呼ぶ。
どうして? ねぇ、気づいてっ。
お願い……っ。
闇が視界の全てを覆いつくす瞬間、彼の目が私を捕らえた気がした――
了
2011/8/13 彩真 創