よくないことが起こると思っていたが、さすがにこれは不味い。自分の誤算にひどく後悔しながら、そう獅童 皓彗(しどう こうすい)は内心で舌打ちする。
「手を挙げろ! 大人しくしないと撃つぞ!!」
ここは銀行。そして今叫んだのは血気盛んな銀行強盗達。
大人しく手を挙げる客はみな青ざめた顔をしていた。できれば自分たちが去った後に来てほしかった、運が悪かったと、内心そう思っていそうだ。
まぁ、そんなこと考えている暇はなさそうだが……。
強盗達はご丁寧に銃まで掲げて、係員にお約束なものを要求している。
どこでそんな凶器を手に入れたのか、常々不思議に思う獅童。
「お、おい、スイっ。これどうなるんだ? どうなるんだ?」
獅童の右隣で手を真っすぐ伸ばし、冷や汗をだらだらと流しながら獅童の後ろに隠れようとする潤。
彼、石森 潤一郎(いしもり じゅんいちろう)は予想以上のことが起きると必要以上にパニックを起こす性格で、もう気絶寸前だった。
逆に左隣の佐々見 漠(ささみ ばく)は小さく手を挙げて、むすっとしている。
「元はと言えば、潤がお金降ろすって言ったのが原因でしょ? せっかくのコウくんとの時間を変なことに巻き込んでくれて、どうするつもり?!」
「お、俺のせいかよっ。」
「九割、君。一割、あいつら」
「ひでぇ」
悪いのは全て強盗達だというのに、ぼそぼそと漠は潤一郎に八つ当たりする。
いや、二人を巻き込んでしまったのは自分の所為だと心の中ですまないとつぶやく獅童。
しかし毎度のことながら、この二人といると緊張感がわかないと思う彼だが、もともと本人が緊張とは疎遠の性格をしているのもある。
獅童は冷静に周囲を観察する。
強盗団は全部で四人。銃二人にナイフ二人。
(これからどうするかは、しばらく様子を見てから動くか……)
獅童は胸元のネックレスを見る。
クリスタルのネックレスの中に赤と黒の液体が左右に入っていた。
そして、今は、赤の色が少ない。
(うかつに動くと危険だな。おそらくまた、何かが起こる)
それは確信に近かった。
なぜなら獅童は知らずとはいえ、このマイナスな状況を作り上げた張本人だから。
彼には人には言えない、特異な体質があったのだった――。
自分の運のバランスのために……。
この特異な体質さえなかったら、獅童は至って普通の人生を送れただろう。
そう思うが何をいってもどうにもならないのが世の常である。