人里からかなり離れた暗き森。昼でも夜でも薄暗い森は人も獣も薄気味悪がり、あまり近づかない場所。
一度踏み込んでしまったら、もう抜け出す事はかなわぬ土地といわれていた。
そこに真夜中、大きな黒い物体がとてつもない速さで駆けていく。
――……クイ、…憎イ。……ス…殺スッ……目ニ映ル者スベテヲ!
その姿はひどく歪(いびつ)で、奇怪な醜い化け物だった。
キィー、と化け物は声をあげ、人里目指し駆けていく。
しかし、その化け物は人里へ向かう事はなかった。
化け物は、かすかな声を聞いたのだった。とても小さいが、凛とした美しい調べを……。