戦の魔女 ーシュラハト・ヘクセー
03.戦三女神(トレ・ウ・ディーア)の乙女な密談

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「口調はひどかったけれど、ずっと子供の私を気にかけてくれて、私の髪の色を素敵だといってくれた」
 見たくもない色が、ほんの少し好きになった気がした。
 段々時が経つにつれて、もう一度逢いたい衝動が積み重なる。
 知らず知らずにイーラは、ハイレンの名前を調べ上げ、遠くから見ているよりも、近くで見たくなってきたのだった。
「あの人、自覚がないみたいだけど、たくさん敵がいるみたいなのよ」
 戦闘狂で、強い傭兵となれば、どこの国もほしがり、誰でも危険視するのだろう。
 あまりハイレンを知らない傭兵たちは、その実力が面白くないとも感じているようだ。
 イーラたち、戦女神は危険視はされているが、レフィーナの存在感とイーラという恐怖心がそれらを、畏怖の象徴として奉られているのだった。
「だから、ね。今度は私があの人を守ってあげたいの。彼に降り掛かる攻撃をすべてはねのけてあげたいの。私と彼の間を邪魔する奴らを殲滅させてあげたいのよ」
 それが、イーラの『好き』の形のようだった。
 自分という存在が前に立てば、敵も退くだろうし、彼は戦場でも命の危険に晒されることはない。
(そしたらあの人は私だけを見てくれる……)
 イーラは遠くでハイレンを見ていた時に、彼の優しさは誰にだって振る舞うことを知る。
 それがどうしてか、悲しくて悔しかった。
「私だけを見て欲しいの……」
 ぽつりと零したその言葉の本当の意味をイーラは知らない。
「どうやらそれも断られた理由の一つみたいね」
「え?」
 独占欲とはよくいったものだ。
 相手のことを思えば思うほど、相手を縛ってしまう方へ考えてしまう。
 それは一方通行のやりとりでしかなくなるのだ。
「追いかけた先が戦場(いくさば)だった時、彼は『邪魔するな』といった具合に追い払われたことがあったんじゃないかしら?」
「……う、うん」
 イーラは六日間の追走劇を振り返る。
 ハイレンが赴いた先、イローネの内紛である小競り合いは、彼を追いかけるのに邪魔だという理由で、イーラは一掃しようとした。
 しかし、それをハイレンは制した。
『女はここにくるな』
 と。
 それに激怒したイーラは、ハイレンを攻撃。ハイレンはハイレンで避けて、そこから逃げる。それをイーラが追いかける、の繰り返しだったのだ。

「……」
「女性はここにくるな。は、別の意味も込められているんじゃないかしら」
 熱くなると見境がないイーラは想い人を独占したい。
 戦いを生きがいとしているハイレンはイーラの言動を避ける。
 両方ともずれていることに自覚がない。
 お互いを知りあうための段階をふめる性格ではないようだ。
(これは暫く、守っていたほうが、お互いのためね)
 レフィーナは妹のことをよく理解しているが、ハイレンの性格は会って確かめない限り、推測でしかできないが、そう結論づける。
(もう少ししたら、彼からアクションが来ると思うから、その時までは……)
 そう、予感がしたレフィーナ。
 ずっと追いかけられているのだ。
 飽きれば、何かその男は行動に移すだろう。
 そう考えているレフィーナにイーラは気まずげに話しかける。
「あ、あの、お姉さま」
「ん、どうしたの?」
「そ、その、どう聞いたらいいのかわからないのですが……レイナお姉さまは、す、好きになった方ができたら、そ、その、え、っと…………」
「えっと?」
「つ、つまりは、私もお姉さまのように、なりたいのです!!」
 前後が食い違っている言い回しだが、レフィーナならではの理解力が発揮される。
「そうね、好きな人ができたら、その人に綺麗に見られたいから、その努力はするわ。イーラもおめかしして、お化粧したら、可愛くなるわよ」
「ほ、ほんとっ」
「それには……カルネ」
「はーい、はい、はーい!」
 ずっと、ずぅ〜っと、しゃべるのを我慢して、会話に加わるのも耐え、二人の姉と離れたところで、正座して『待て』をしていたカルネは大はしゃぎで、飛んできた。
「カルネ、カルネの出番! ルーお姉様を美しくするのはカルネの役目!!」
 意気揚々とイーラの髪質や肌をチェックする。
「やっと、カルネはルーお姉様のお手入れをすることができるっ。お姉様の髪は枝毛が多くて、ボサボサで痛みまくっているの。肌は今までニキビができなかったのがふしぎなくらいもちもちしているけど、日焼けしてシミになっているところがあるの! ずっと、ずっと、気になっていたの!!」
「カルネ」
「あいっ?」
 無言の笑顔でレフィーナはイーラに視線を向けろと訴える。
「ほえ? あ、ルーお姉様が撃沈している! そうかっ、カルネが原因ね! お姉様ごめんなさい。女子力がゼロといって、悪気はなかったの! あああぁ、お姉様がどんどん地面に沈んでいく〜〜」
 無邪気過ぎる妹の容赦ない攻撃に、イーラはショックを隠せず、ただひたすら地面に潜る。
 レフィーナはともかく、妹のカルネでさえ、肌のお手入れをしていたことに気付き動揺を隠せない。
「わ、わたし……、どうして今まで気づかなかったのかしら?」
 女として、ようやく自覚したイーラ。
「お姉様は戦っている時こそ生き生きしてたもの! ご自身の髪が引きちぎれても、怪我をしても勇ましく戦うお姉様は、まさに戦場の女神!!」
 キラキラした瞳で語る妹にどう答えればいいのか、イーラは言葉をなくす。
 ずっと一緒にいるのに、近くに感じていたのに、今はなぜだか二人が遠い。
(まるで私だけどこか別の世界にいるみたい)
 二人だって、戦に出て、戦っているのだ。
 それなのに、どこの誰よりも女らしいことは、一番イーラが知っている。それが今はなぜだか急に心細くなった。
(どうせ、わたしなんて……)
「イーラ。自分を嫌うことだけはしちゃだめよ」
 そう思いかけたイーラを見通してレフィーナはそれを止めた。
「でも……」
「私たちは、ありのままのイーラが好きなの。イーラも私たちをそう思っているでしょう?」
「カルネも! カルネも、レイナおねーさまも、ルーおねーさまも、大、大、大好きよ! 嫌いになったらカルネ、わんわん泣くわ!」
「カルネ、痛いよ」
 嫌いにならないで〜、としがみつくカルネに、イーラは苦笑する。
 どんな自分でもありのままを受け止めてくれる。
 そんな場所があることに気付かされる度にイーラは心が暖かくなるのだった。
「嫌いにならないよ」
「ほんと!」
「うん」
「ふふ。二人ともそろそろ、移動しましょう。ここだと、色々やりにくいわ」
 周囲が荒れ野原だったことを思い出す妹たち。
「それじゃ、アジトに戻って、ルーお姉様の改造計画を練りましょうよ!」
「改造計画って……」
「カルネはもう少し口を閉じれるといいわね」
 困った子ね。
 ため息をつくレフィーナに、でも、とイーラは言った。
「それがカルネのいいとこでもあるよ」
「それもそうね」
「お姉様たち〜、はやく、はやく〜」
 二人は苦笑しあいながら、末の妹を追いかけていった。

 

 
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