オープニング
我は人間からみると犬だ。我から見ても犬なのは変わらない。まぁ、そんなことは良いとして、近頃犬ブームとかいって、何だかんだと人間は我を可愛がるのだ。
しかし我は、ホームレスドッグだ。認めた人間以外我は近づかん。
それだけは知っておいてもらいたいのだ。
む、いかん、いかん。我の自己紹介だけで終わってしまう。
ここからが本題である。
今日は我のある一日を紹介する。
我はホームレスドッグだ。
孤高の犬だ。
その意味を理解していない輩もいるからな、説明するのである。
ではついてきてもらおう。
遠慮はいらんぞ。
第一章 〜我と斗真殿〜
「ポチ、散歩へ行こうか」
そう我を誘う斗真(とうま)殿。
我が認めた唯一の人間である。
我は斗真殿と出会うまであらゆる所を旅していた。
時には陸から陸へと海を渡ったり、時にはとある豪邸に侵入し彷徨ったり、時にはマンホールの中へ落ちてしまい、数週間下水道の異様な匂いと戦っていたりしていた。
まぁ、こんなこと、どうってことないがな。
なぜなら、我はホームレスドッグなのだから!
そんなわけで我はここ数か月、斗真殿の下に滞在している。
斗真殿は器量もよし、頭もよくて優しい人間だ。
これが周囲で憧れる存在というものだろう。
何より出される食事か最高にうまい。斗真殿は一流のシェフというより家庭の母の味という程旨いのだ。
今日のお昼の炒飯(チャーハン)も絶品であった。
思い出しただけでも涎が反射ででてしまうくらいである。
孤高の我でさえ斗真殿を婿としてもらう女子(おなご)を羨ましく思うほどだ。
しかし、そんな完璧に近い斗真殿にも、苦悩があるのだ。
それはある友人のことでの悩みらしい。その友人の所へ訪問する度に、斗真殿は鬼のような形相で帰ってくる。
我も驚いた。
あんな斗真殿の姿初めて見たからな。あの時は、これが噂に聞く人間の裏側というものかと、納得した。
我は一つ賢くなったのである。
そんなわけで、おそらく今日もその友人のところへいくのであろう。
いそいそ準備しておる斗真殿の背中で察せられる。
恐らくは我を供にしていくのだ。理由は散歩がてら……といったところかな。まぁ、一度拝見したいと思っていた所だ。
ちょうどよい機会である。
この温和な斗真殿を怒らせる人物に興味がわいたのだ。
ちなみに、我は気に食わないものは思いっきり噛む。
人間の急所は足の指だ。手の指でもよい。大概、涙目で逃げていく。覚えておくとよい。
人間は我より顎の力が弱いらしいが大丈夫だ。
思いっきり噛むとよい。
「ぽち、今日は裏山で散歩しようか」
裏山?
何故(なにゆえ)か?
我は首を傾げ質問する。
すると、斗真殿は苦笑しながら言うのだ。
「ああ、ポチは知らないよね。裏山には僕の友人が棲んでいるんだ」
ふむ、どうだ我の考えが当たったであろう。
我ほどとなれば人間の考えなど手に取るようにわかるのだ。
しかし、何故裏山に棲んでいるのだ?
我はもう一度首を傾げる。我の疑問がわかったのか、斗真殿はさらに微妙な顔をし、言葉を濁す。
斗真殿らしくない。
「雲斗(くもと)、あ、そいつの名前ね。……雲斗はちょっと変り者なんだよ……」
なるほど、人間は動物の変わり者だが、そやつは人間の中での変わり者らしい。
ますます気になってくるな……。
我はパタパタと尻尾をふる。大抵の人間は、これを催促の合図だと認識するらしい。斗真殿もそう思ったみたいだ。
「散歩へ早く行きたいの? なら、さっそく行こうか」
手には大きめな鞄を持ち斗真殿は、我の首輪にチェーンをかける。
ん? なんだ、その目は。
我は斗真殿の飼い犬ではないぞ。ただしばらくはここで暮らそうと思っているので、満足させてあげておるのだ。
だから正確に言うと、我が斗真殿に気を使っていると言うことだ。
我も優しいであろう。
さて、いつものように散歩について行くとするか。
本編へ続く☆
2014/6/15発行 彩真 創
『森のおバカさん』のサンプル