それはついていない日だった。
良くない日に起こる些細なことは、なんとなく嬉しくなるもんだ。
「いって〜。なんでこんな所に、ガラスの破片があるんだよ」
俺は汚いアスファルトに尻餅をついていた。
脇に転がっているガラスの破片を睨みつける。
このガラスのお陰で、自転車はパンク、俺は派手にずっこけ、手から血が出ていた。
家まであと数十キロ、本当ついていない。
痴漢扱いされるは、財布はすられるは、携帯落とすはで、果ては、自転車がパンク。
これ以上にないくらい最低な日だ。
もう隕石でも何でもふってくれればいい。
そう、思っていたら、突然変な奴に出会った。
「ねぇ、大丈夫? おじさん」
ふと見上げると、小さな女の子が、じっと俺を見ていた。
「今日は最悪な日だね。おじさん」
まるで今までのことを見てきたかのいいようだ。
「俺のこと知っているのか?」
俺は立ち上がり、その子に睨みつける。
なんか薄気味悪いガキだ。
ずっと、無表情にしてやがる。
「ううん、はじめて。だけど今日はよく、おじさんを見かけた」
なるほど、偶然俺の散々なとこを見てきたわけか。
なんだか恥ずかしいな。
「それで、俺に何のようだ? ないなら俺は帰るぞ」
自転車を起こす。
うわ、完全にこれは修理に出してもダメだな。
ついてないな。
「ついてないね、おじさん。こんなについてない人、私初めて見たよ」
何が言いたいんだこのガキ。
いちいち気に触ることをいう、一片キレてやろうか?
そう思って、振り返ると、そのガキは腕をさしだしていた。
「あげるよ。おじさん」
受け取ったのは、バンドエイドと一つの飴。
「じゃあね。おじさん」
少女は小走りで去っていった。
俺は呆然とし、手の中のものを見つめる。
なんだったんだ?
とりあえず、怪我に貰ったバンドエイドを貼る。
そして、青い紙に包まれた飴を口に入れる。
畜生、甘い。
「俺はまだ、お兄さんだ……」
ぽつりといい、俺は自転車を引きずる。
口の中で広がる甘い、ミルク味。
なんだか、胸が暖かくなった……。
了
御題:ガラス
2011/8/13 彩真 創