相思華
〜華ハ 葉ハ タレヲ思フ〜

3/3p


 次の日の帰り道。浅緋は怪しい人物に思い合ったったと言ってきた。
「で、誰なんだ?」
 目が充血している。ここ二週間。浅緋はほとんど寝ていないように思えた。
「うん。昨日電話してみたの。その、お見舞いにいけない友達に」
 勇気を出して、車にひかれたときのことをきいてみたのだという。その友達の話では、その時、救急車がくる前に集まったギャラリーの中で、同じ学校の生徒を見たのだという。
「それが、なにかおかしいことなのか?」
 帰宅途中の時に事故を見かけて集まったんじゃないのか?
「うん。その、なんか、その男の子笑ってた気がしたみたい。今に思えば、変だと思ったんだって」
「そうか」
「美樹、元気だった。噂なんて気にするなって言ってくれたの」
 話せてよかったっと、浅緋は嬉しそうに泣いた。
 真横で俺の肩に乗っているアキも嬉しそうに微笑んでいた。
 重なって見えるから、思わず浅緋の頭を撫でていた。
「よかったな。……それでその男子っていうのは?」
 以外にも浅緋は怒らなかった。少し下を向きながら、話す。
「お、同じクラスの子、みたい。あんまり話したことないから、よくは知らないんだけど。最近休んでいるのよ」
「で、今からそいつの家に行くのか?」
「そうよ」
「なんて言って訪ねるんだ?」
「プリント預かってるから、それを渡しにいくだけよ。ついでにちょっと探ってみるのよ。いきなり言って間違えたら失礼じゃない。あなたじゃないんだから」
「あ、そう」
 俺、そんなに失礼なこと言ったか?
 浅緋は道を進んでいくにつれ、歩幅が短くなってきた。その男子が犯人であってほしいような犯人であってほしくないようなそんな感じなのだろう。
 その子の名前すら知らないのに、風評被害を浴びせられるほど危険な相手だ。
 嫌な予感がする。
「この道を抜けたらその子の家よ」
 工事中のビルの脇を通らなきゃ行けないのか。
 なんか、降ってきそう。
 そう思って冗談で上を見た。
 自分の考えほど怖いものはなかった。
「浅緋!」
 気がついた時には、彼女を突き飛ばしていた。
 危機的状況に陥ると何もかもがスローモーションのように見える。
 降ってくる鉄骨。
 浅緋の悲鳴。
 あ、終わったな。
 そう悟った瞬間、アキの笑顔が目の前にあった。
「ア……」
 キ?

 周辺に鉄のけたたましい音が響いた。

 

間

 

「と、くさ、木賊! 聴こえる!? しっかりしてっ」
「あ、さひ?」
「すぐ、救急車くるから、動いちゃダメよ。血が出てるんだから」
 なんだっけ、何が起こったんだっけ?
 視界を傾けると、すぐ側で、のびている人間がいた。
「あ、いつ、は?」
「木賊が倒れた後、変なこといいながら、こっちに来たから思い切ってぼこぼこにしたのよっ。人間だもの。おばけなんかより全然怖くないわっ」
 あぁそうか。犯人を捜していて、そいつの家にいく途中、鉄骨が…………そうだ、アキ!
「ちょ、木賊動いちゃダメだって。頭から血が出てるのよっ」
 視界が悪い。
 アキは、どこだ?
 数本の鉄骨が落ちている場所。嫌な予感がした。

 アキ!!

「木賊?! なにやってるのっ。動いちゃダメだって、なにがあったの?」
 嘘だ。
 絶対に嘘だ。
 鉄骨を力の限りどける。

「あ……」
 そこには、アキはいなかった。
 いなかったけれど、いた。
 そこに居たのは、バラバラになった赤い花弁。
「うそ、だ」
 花の香りがする。いつもアキから漂っていたあの香り。
 震えていて中々、花弁がとれない。
 視界が霞んで見えない。
 必死で拭う。
 アキ。
 アキ、ごめんな。
 ごめんな。

 俺の所為で、ごめんな――。

 あの後、警察やら救急車やらが来てその場が騒然とした。
 俺は、頭に三針縫うケガですんだ。
 浅緋にひどいことをしたあの男は彼女を独り占めしたいがために、周囲を傷つけたのだという。
 行き場のない悲しみが俺の胸に残った。

 

間

 

「アキは花の精だったんだ」
 あの時初めて知った。けれど花弁が破れすぎて何の花なのかわからなかった。
 そしてようやく集めれたものを栞にした。
「俺と浅緋を守って消えてしまった」
 別れはいつも突然だ。
 置いてけぼりになるのはいつも、生き残った方。
「ごめんな、浅緋。どうしても忘れられないんだ。忘れられないんだよ」
 悔しくて、アキを守れなかったことが、どうしても忘れられないんだ。
「ねぇ、きいてもいい?」
「?」
 それまで、黙ってきいてくれた浅緋。
「アキちゃんは、最後、笑ってた?」
 唐突な質問。
 アキの最後。
 笑ってた。
 嬉しそうに笑ってた。
「多分、その花の名は――――よ。知ってる?」
「え」
 ふと、ばっちゃんの墓の帰り道に咲いていた花が思い浮かんだ。あの時は花の種類なんて知らなかったから、気にもとめなかった。
 ただ一度、枯れかけたその花に水をあげたこと以外、ただ見ていただけだった。
「花言葉は“想うはあなた一人”。何があっても大切な人を守り抜くそんな花言葉よ」
 ずっと繋いでいた手は温かかった。
 栞を見る。
 アキが笑った気がした。
 ありがとう、浅緋。

 さよなら、アキ。

 

間

 

 ねぇ ねぇ あのひと わらってくれたわ
 ずっとないていたの
 わたしは おんがえしができて うれしかったのに
 あのひとは ずっとないていた
 わたしのかけらを ずっとだきしめながら

 わたし おんがえしできなかったのかしら?

 でも ようやく あのひとはわらったわ
 よかった
 ほんとに よかった

 あら?

 わたしのかけらのとなりに なにか かいているわ
 なんてかいているのかしら?

『アキへ 君に逢えて 本当によかった ありがとう さようなら』


 
孤独結社樣 テーマ小説企画『はな』参加作品
2012/4/15 彩真 創
前へ  目次  次へ
copyright(c)2010- Tukuru Saima All right reserved.since2010/2/5