初っ端から銀行強盗事件

第四章 〜IN 銀行〜  二節


 獅童達がいる幸吉銀行が強盗団によって占拠された。
 しかし、それを外部の人間が知るのは、この事件が終わった後だった。
 部屋は狭くはないが、一カ所からでも全体が見渡せるほどの広さだ。
 周囲の状況を確認する獅童。
 唯一の出入り口に銃を持った人が一人。全体の見張り役のようだ。
 さらに、シャッターが閉められており外との交信は不可能な状況。
 ホールにサバイバルナイフを持った体躯のいい人物が客を一カ所に集めている。
 獅童達もそこに集められる。
 受付の向こう従業員側にも、ナイフを持った体格のいいのが、一人配置されていた。同じく店員達を一カ所に集めている。
 そして銃を片手に全体の指示を出しているリーダー格らしき人が、ひとりの若い従業員に銃を突きつけ、お約束のものを黒い鞄に詰め込ませている。
 細密に分担された役割、隙のない計画。

 ――面倒な事になったな…………。

 昼が近いこの人通りの多い時間に、こんな大胆なことは絶対に自信がなければできないことだ。
 緻密にたてられた犯罪計画を……。

 犯人達はみんな覆面をしているので顔などもちろん見えない。
 ただわかるのは皆何かしら武術の心得がある、ということだった。
 獅童は人並み以上の護身術を身につけているので、ある程度相手の力量は読めるし一対一なら楽勝だ。しかし、相手は四人。
 それに銃が二人だ。
 一人は倒せたとしても、二人目が離れていたら意味がない。
 多少の怪我を覚悟で行けば何とかなるかもしれないが、そうすると苑が悲しんでしまう。
 それだけは避けたい事だった。
 それに、とりあえず自分に余り害がないので、大人しくしといた方がいいと判断する。

 ちらりと視線を胸元まで下げる。V時型のシャツから覗くクリスタル。
 赤の液体は、少ない。
 無闇にそれを減らしたくなかった。
 黒は確実に減ってはいるが…………。
 取り残された数人の客の後ろで獅童はしばらく静観する事に決めたのだった。

 冷静に判断しなければ、こちらが危うくなる。

 

***     ***

 

「ねぇ、コウくん。おかしいと思わない?」
 先ほどからどす黒いオーラを放出している漠が、ひっそりと皓彗に話しかける。
 強盗団から目を離さないで、獅童は口を開く。
「どうして、奴らがすんなり入ってこれたのか……か?」
「うん。それって少なくとも係員の中に、あいつらの仲間がいるってことだよね」
 一番妖しいのはあの女だね……。
 漠の視線の先は、お金を鞄につめている従業員だった。
 セミロングの髪を飾り気のないブレットで留めている女性。
 しかし、その顔はひどく蒼白で汗ばんでいた。その様子から見ても相当怯えていることがわかる。犯人達の仲間とは考えにくい。
 これが演技なら、役者の方に向いているのではないかと獅童は思うが、漠は絶対あいつも妖しいと断言する。
 しかし仮にそうだとしても、あの女性は事が起こるまで、一歩もここから離れていなかった。
「もう一人いるな」
 この部屋にではなく、おそらく管理室に。
 警備員をここから離して、強盗達を手引きした者が……。でなければ、今頃警報スイッチで外に知らされているはずだ。
 しかし、外からサイレンの音など聞こえない。
 通信が遮断されている可能性がある。
 そう推理しても確かめる手段はない。
「なんだ? 二人して何の話してんだ?」
「しっ、声でかい!」
 獅童の右隣にいる空気読めない潤一郎に、叱咤する漠。
「おい、そこ、静かにしろ!」
 玄関付近にいるハンドガンを持った男が銃口をこちらに向けながら怒鳴る。
 一斉に息をのむ客達。
「はい〜〜〜!」
 背筋を限界まで伸ばし、潤一郎は口を真一文字にする。
「情けない……」
 侮蔑の目を含みながら漠も大人しくなる。
 腹で何を考えているかわからないが……。
 獅童も二人に倣う。まだ、腑に落ちない事がいくつかあるが……それはあちらから、ぼろが出てくるだろうと考える獅童。
 どんなに綿密に計算されたものでも、それは現実世界に置いて、絶対に完璧に遂行できない事を知っているからだ。
 彼の運のように。

 

 

 
第四章 〜IN 銀行〜 三節に続く
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