戦の魔女 ーシュラハト・ヘクセー
03.戦三女神(トレ・ウ・ディーア)の乙女な密談

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――次の日
 イーラにあう薬を調合していたカルネ。
「あれ? どうしたの、レイナお姉様」
 音もなく表れたレフィーナに動揺もせず、無邪気に首をひねる。
「カルネにお願いがあるの」
「なになに、媚薬の調合?!」
「いいえ、違うわ。私とカルネで、ほんの少しだけ、イーラの恋をお手伝いするのよ」
「え、なにそれ! 面白そう!!」
 当事者は、只今、想い人を追いかけている最中。
 昨日今日で追走劇が終わるわけはなく、天邪鬼なイーラは同じことを繰り返してしまうのだった。
「で、で? カルネは何をすればいいの?」
「簡単なことよ。イーラが暴走する前に、吹き矢で眠らせるだけでいいの」
 そうしないと、地形やら、国やら、色々変わってしまうから。
「それにまた、イーラが落ち込む姿なんて見たくないのよ」
 我を忘れるたびに、浴びてしまう嫌いな赤を、イーラは我に返るたびに、自分を嫌悪するのだ。
 最近は落ち着いていきたのに、恋愛の所為で再発してしまった。
「そういうことならば、お任せあれ!」
 殺意全開のイーラの後ろをとれるのはこの二人だけ。
 カルネは一瞬でイーラを昏倒させる薬を調合できるので、それで普段は止めていたのだ。
「暫くカルネはイーラを尾行して、観察してほしいの。そして、暴走したら止めて、イーラを回収して戻ってくる。その時に三人でイーラの髪の手入れとか行いましょう」
「あれ? イーラお姉様自身にやらせないの?」
「あの子、一個に夢中になるとそれしかできないから……」
 一応、思い出した時に手入れをするようには伝えているが、心に余裕のない今の状況では、何回か一緒にやって体に慣れさせたほうがいいと、レフィーナは判断したのだ。
「そうね! イーラお姉様は、恋のことと、女のことは赤ちゃんだものね!!」
「その表現は、本人の前で言わないでね」
「はい!」
「返事だけは立派なんだから」
 恋愛に対しては、カルネもそうな気がするが、カルネの場合は性格が特殊すぎるので、目を瞑ることにした。
「その薬ができたら、さっそく追いかけて頂戴ね」
「あいさー! 超高品質な薬に仕上げるね。あれ? その間、レイナお姉様はなにをしてるのですか?」
「いつも通りのことよ」
「まぁ、レイナお姉様は手伝わないのですか?」
「いいえ、手伝うわよ。ただ、物事には流れがあるの」
 そう、それを引き合わせるにはまだ、足りない。
 にっこりと、だから、暫くはカルネだけでお願いね、と告げる。
「あいあいさー! お姉様を信じるわ。この任務、名付けて『イーラお姉様、乙女☆作戦お薬、これで異性もイチコロ!』を遂行します!!」
「じゃあ、よろしくね」
 ネーミングセンス以前の問題だが、レフィーナは笑顔で全部流した。
 レフィーナが去った後、意気揚々とカルネは叫ぶ。
「さぁさ、一体イーラお姉さまが好きになった殿方は、どんな人物なのだろうか!? カルネはどんな光景を目撃するのだろうか!」
 もしもの場合を考慮して、準備をするカルネであった。

 

 そして、十二日間のハイレンとイーラの攻防にこっそり、カルネも加わり、被害が最小限に抑えられたのだった。

 

 
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