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昔、たくさんの雛鳥が、戦時中に産まれました。
その中には一回り小さな雛鳥がいました。
まだ飛べないその雛鳥はすぐに命の危険にさらされます。
しかし、雛鳥は死にませんでした。
雛鳥には不思議な力が宿っていたのです。
たくさんの敵を赤に染め上げました。
雛鳥は歩くごとに赤が降り注ぎ、翼に染み込みます。
翼はたくさんの血を吸って重くなり赤黒い色へと変色してしまいました。
ある日、自分の姿を見た雛鳥は、その変わり果てた姿に、ただ、ただ、絶望しました。
重くなった羽は成長しても飛ぶこともできず、他の雛鳥と一緒だった羽の色はこびりついてとれなくなってしまっていたからです。
そして雛鳥は空を飛ぶことを諦めました。羽の色を隠すため翼を隠し、鳥でいることも諦め、『死の鳥(モルテ・フォーゲル)』と化したのでした……。
「……」
「そんな遠い昔のお話よ」
あなたは前を向くだけでなく、後ろにも気を配るべきよ。
そういい残し、レフィーナ達は去っていった。
魔式(マナ)を高度に操れる者は、時の流れが普通の人間より遅い。
魔力は誰でも持っているが、それを魔式に変換できるものと、できないものでわかれる。
そして、魔式は心の成長も遅くさせる。
生まれつきイーラは魔力もさながら、魔式も扱えた。
強い力を持つということは、同時に何かを失うということなのかもしれない。
「小さな雛鳥は、理由もなく飛べなくなったわけじゃないのか……」
そんなハイレンの独り言は星明かりだけが聞いていた。
「お姉様、レフィーナお姉様っ」
「なあに? カルネ」
「どうして何も言わなかったの」
「何を」
「もう、どうしてルーお姉様も、レイナお姉様もあの男に甘いのっ」
あんながさつな男。
ぶー、と頬を膨らませるカルネ。
「別に、私は甘くした覚えはないけれど……強いて言うなら……そうね。少し勿体ないと思ったからかしら」
彼に忍び寄る、不吉な影に。
「えー、なにそれ、カルネにも詳しく教えて〜」
「大丈夫よ。その時になったら、わかるから」
そう笑って、カルネを宥める。
彼は、不思議に思っていないようだ。
なぜ、自分があそこにいることを。
イルテの内紛は三日前に終わったことはレフィーナも知っている。
カルネが彼は仲間と一緒に行動し始めたのが四日前。
にもかかわらず、彼は一人あそこで考え事をしていた。
誰かに雇われているなら戦争中の混乱の中でもない限り、一人で行動する傭兵なんていないのに。
(疑うことを知らないのはイーラにそっくりなようね)
内心苦笑する。
出来る限りのことはした。
どうなるかは、その時までレフィーナ自身もわからないのだった。
人気のない通りを選びながら、人影は無音で歩く。
ふと、行き止まりにあたる。
「首尾は?」
並んでいる箱の背後からもう一つの人影が、問う。
「上々です」
「……上手くいくんだろうな?」
軽く答えた男に箱に隠れている人影は、不服そうに身じろぎする。
「ええ、大丈夫ですよ。今のところ、奴らは全く気付いていません」
「そうか……」
ならば、頼んだぞ。
そう言い残し、人影は消える。
その場に残ったもう一つの人影は、満天の星空を見上げる。
(この日のためだけに、慎重にことを進めた。大丈夫さ。必ず成功する――)
始まりの太陽が昇った――。