戦の魔女 ーシュラハト・ヘクセー
07.廻り重なる運命(ディステーネ)

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 同じくして森の中。
 イーラはハイレンの気配を便りに、森をオドオド歩いていた。
 この恰好がどうしても、落ち着かないのだ。
(カルネは本当に途中までしかついてきてくれないんだから〜)
 そう内心、笑顔で見送った妹を羨ましがる。
「あっちかな……なんか、森がざわついているけど、何かあったのかしら」
 同時に胸が騒いだ。
(変だ……何か、何かが起こっている)
 数ある修羅場をくぐってきた、イーラは、そう思った瞬間走り出していた。
 どこ、どこ……!

 

間

 

 イーラは森の中を駆け抜ける。
「イー……」
 不意に声がした。
 急いで振り返ると、血まみれになったハイレンが木々の間で倒れていた。
「はや、く……にげ、ろ」
 息絶え絶えに、そう告げるハイレンに一瞬硬直したイーラだが。
「お前、あの人に何をしたの」
「え?」
「お前は、あのとき、ハイレン・シャガールに庇ってもらった奴だろう? お前、あいつを裏切ったのか」
 とてつもない殺気が木々に充満する。
 さすがのハイレン、もといジルも後ろへひく。
 しかし、すでにイーラは目の前にきていた
「お前に逃げる権利はない。私の質問に答えること以外、何もするな」
 ジルの頭を掴んで、地面に叩き込む。
「ぐっ」
「あぁ、もう喋らなくてもいいわ。下等で卑劣なお前の口など聞きたくもない」
「ちょ、ちょ、まて」
 ジルは焦っていた。
 偽姿見(イリエナ)は完璧なはずなのに、どうしてことごとく、ハイレンもイーラもすぐに見破ってしまうのか。
「あんたの魔式なんて、薄っぺらいのよ」
「!」
「お前、本当に馬鹿ね。折角、あの人が助けてくれたのに。命をはって守ってくれていたのに、それを無にするなんて……。とても憎いわね」
 急がなきゃいけないから、手短に終わらせてあげる。
 死の鳥は薄笑いを浮かべ、死を呼んだ。

 

間

 

 あーバチが当たったんだろうか。
 そう、ハイレンは空を見上げながら呟く。
 ……女を傷つけたから。
 大丈夫かな、あいつ。
 思い浮かべるのは、赤い鳥。
 あいつなら、大丈夫な気がするが、気になる。
 偽姿見(イリエナ)なんかで、騙されるほど、あいつが俺に対する想いは弱くはないだろう。
 あれ……、なんかこれって。
 くそ、なんかうまく考えられねー。
 あー、また、敵がくるのかよ。
 やべえ、これは形も残らないフラグだ。
 動きたいのに、なさけねぇな。
 もう、動けないみたいだわ。
 死ぬんじゃねーぞ、イーラ。
 あ、俺が先に死ぬのか。
 …………。
 ……そうか。
 俺は、あいつのこと死んで欲しくないくらいには好きだったんだなぁ。
 今頃気付いても遅いか……。
 空が霞んできたなー。

 さよ、なら……か――。
「ハイン!」
 急に呼ばれた。
「ハイン、ハインッ」
 目を開けると、空ではなく、太陽をかざした赤い鳥がいた。
「よー、イーラ。生きてたか」
「よ、じゃないわ……」
 あーそうか。
 これで安心して逝ける。
 満足げにハイレンは瞳を閉じたのだった。

 

間

 

 違う……
 目の前で息を引き取ろうとしているあの人。
 私はこんなの見たくない。
 私はあなたを守ってあげたいんじゃない。
 殺したいわけじゃない。
 ただ、一緒にいたかっただけなのよ。

 近づいてくる、邪魔な気配。
 イーラは立ち上がる。
 もう、誰にも触れさせない。
 死の鳥は決意を胸に、舞うのだった。

 

 

 
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