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同じくして森の中。
イーラはハイレンの気配を便りに、森をオドオド歩いていた。
この恰好がどうしても、落ち着かないのだ。
(カルネは本当に途中までしかついてきてくれないんだから〜)
そう内心、笑顔で見送った妹を羨ましがる。
「あっちかな……なんか、森がざわついているけど、何かあったのかしら」
同時に胸が騒いだ。
(変だ……何か、何かが起こっている)
数ある修羅場をくぐってきた、イーラは、そう思った瞬間走り出していた。
どこ、どこ……!
イーラは森の中を駆け抜ける。
「イー……」
不意に声がした。
急いで振り返ると、血まみれになったハイレンが木々の間で倒れていた。
「はや、く……にげ、ろ」
息絶え絶えに、そう告げるハイレンに一瞬硬直したイーラだが。
「お前、あの人に何をしたの」
「え?」
「お前は、あのとき、ハイレン・シャガールに庇ってもらった奴だろう? お前、あいつを裏切ったのか」
とてつもない殺気が木々に充満する。
さすがのハイレン、もといジルも後ろへひく。
しかし、すでにイーラは目の前にきていた
「お前に逃げる権利はない。私の質問に答えること以外、何もするな」
ジルの頭を掴んで、地面に叩き込む。
「ぐっ」
「あぁ、もう喋らなくてもいいわ。下等で卑劣なお前の口など聞きたくもない」
「ちょ、ちょ、まて」
ジルは焦っていた。
偽姿見(イリエナ)は完璧なはずなのに、どうしてことごとく、ハイレンもイーラもすぐに見破ってしまうのか。
「あんたの魔式なんて、薄っぺらいのよ」
「!」
「お前、本当に馬鹿ね。折角、あの人が助けてくれたのに。命をはって守ってくれていたのに、それを無にするなんて……。とても憎いわね」
急がなきゃいけないから、手短に終わらせてあげる。
死の鳥は薄笑いを浮かべ、死を呼んだ。
あーバチが当たったんだろうか。
そう、ハイレンは空を見上げながら呟く。
……女を傷つけたから。
大丈夫かな、あいつ。
思い浮かべるのは、赤い鳥。
あいつなら、大丈夫な気がするが、気になる。
偽姿見(イリエナ)なんかで、騙されるほど、あいつが俺に対する想いは弱くはないだろう。
あれ……、なんかこれって。
くそ、なんかうまく考えられねー。
あー、また、敵がくるのかよ。
やべえ、これは形も残らないフラグだ。
動きたいのに、なさけねぇな。
もう、動けないみたいだわ。
死ぬんじゃねーぞ、イーラ。
あ、俺が先に死ぬのか。
…………。
……そうか。
俺は、あいつのこと死んで欲しくないくらいには好きだったんだなぁ。
今頃気付いても遅いか……。
空が霞んできたなー。
さよ、なら……か――。
「ハイン!」
急に呼ばれた。
「ハイン、ハインッ」
目を開けると、空ではなく、太陽をかざした赤い鳥がいた。
「よー、イーラ。生きてたか」
「よ、じゃないわ……」
あーそうか。
これで安心して逝ける。
満足げにハイレンは瞳を閉じたのだった。
違う……
目の前で息を引き取ろうとしているあの人。
私はこんなの見たくない。
私はあなたを守ってあげたいんじゃない。
殺したいわけじゃない。
ただ、一緒にいたかっただけなのよ。
近づいてくる、邪魔な気配。
イーラは立ち上がる。
もう、誰にも触れさせない。
死の鳥は決意を胸に、舞うのだった。