Death Murder

第二章  〜無慈悲に狩るは群青(ぐんじょう)の使者〜  |5p


 久しぶりに帰ってきた我が家は、散らかっていた。
「あいたたたた、さすがに、痛いなぁ」
 さすがに至近距離の爆発は、マントも俺の皮膚もダメージがいっぱいだ。
 外の野次馬にまぎれて帰ってきたのはいいけど、部屋がこんなに散らかっているのはなぜだろう?
 え〜っと、そういえば、大分前にここで人間達と飲み会して以来だったけな。
 うへぇ、なんか匂う。
 片付け面倒くさくって、放置してたからかな。
 今度、エルに掃除してもらおう。
 目に余る色んなものを、横に押しのけて、火傷の手当を始める。
 ふと、こげた用紙が目に留まる。
 エルは、見てないんだろうな、渡したリスト。
 せっかくあげたのに、見ないってあいつらしいけど。

 必ず死ぬ者は、どんなに手を伸ばしても助からない。
 知らない方が、幸せってことか……。
 それでも、あいつは死期が近いものを見つけると自ら近寄っていく。
 不可解な行動だ。
 
 埃被ったテレビをつければ、さっきの事故が大々的に放送していた。
 この大惨事に奇跡的に七人助かったとニュースキャスターは喜びと驚きを表している。
 バスは爆発で見る影もない。
 奇跡、ね。
 結果的に彼女がそれをつくり出したんだけどね。
 それを知る者は俺だけだ。
 わずかに背後から、音がした。
「あのまま、何もしなかったらひよりん含めて三人だったんだけどなー。……俺の行動がそんなに驚くことだった? エルベリト」
 振り向くと案の定、エルがいた。
 その顔には疑問と雫が見える。
「そこに突っ立ってないで、ちょっと背中を消毒してくれる? 届かないんだ」
「なぜっ、こんなことを、した」
「ん。そんなのまとめた方が、都合いいじゃん」
 リストは曖昧なことしか書いてない。時間がわかっているのもあるが、ほとんどない者が多い。
 たまたま、ネット仲間がリストにたくさん載っていたから、まとめて回収した方がいいと判断しただけ。だからこのパーティを仕組んだ。
 一人だけ時間わかっていたし。
 それで、どうして他の人達も巻き込んだ、それを怒っているんだろ?
 答えは至極簡単、『それが、どうしたの?』だ。俺は誰が死のうが生きようが、どうでもいいよ。
 だって、人間じゃないし、それに神のような慈悲を持っているわけでもない。
 まぁ、苦しまないように色々配慮はしてあげたけどね。
「お前は、なにも感じないのかっ」
「感じないよ。形あるもの、いつか朽ち果てる。どんなに望んだって無くなるものは、突然でも、くるんだ」
 ネット仲間は他にもいるし。繋がるのも切るのも簡単な時代。
 いや、それは遥か昔からあること。
 適度に割り切ることが何事も肝心なんだよ。

 まぁ、割り切れない奴らもいるけどね。
 長達もエルも。人間達への恐怖や思いやりを割り切れば、すんなり廻っていくだろうにな。

 悔しそうに、悲しそうに唇を噛み締めながら、親友は俺の背中に消毒液を塗りながら泣く。
 俺にはないモノを持っている親友は、いつも泣く。
 まぁ、それでいいんじゃないかって俺は思っている。
 理解できないけどね。
 彼は俺が、全く関係ない者をこの手で殺したことを知ったら、なんて憶うんだろうな。
 絶交されちゃうかな?
 それは少し寂しいかな。
 あ、人間っぽいな、今の。
 ははっ。

 “死ぬ”ことを選んだ奴も“生きる”ことを選んだ奴も、俺にとってはどちらも正しいと思うよ。
 多分人生ってどれを選択しても間違いなんてないんだろう。
 後悔というのは感情に左右されるから。
 この選択肢を、他の人はどう思うんだろうね?

 色々思うとこあるけど、そういう疑問は他の奴らにまわすさ。
 できれば、彼女もエルもその秘めた決意がいつまでも続くことを祈っている。

 俺は隣で見届けてやるよ。
 だから、見つけてくれよ?
 迷いの先にある出口って奴を…………。

 

 

『Death Mueder』 了
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