苑は窓際にいた。
カーテンが開いている窓の向こうには、色鮮やかな花壇が見える。キリトの執事が定期的に手入れしているのを、苑はいつもここから見ていた。
たまに、皓彗が水やりなどをしており、それを見るのがなにより苑は好きなのだ。
周りの水滴がキラキラと輝き、彼の姿を照らしているから……。
苑が家からでたくなかったら無理強いしない。
なにも聞いてこない。だけど、いつも気にかけてくれる。
それが、彼女にとって何よりも嬉しかった。
苑にもわからないから。
人と違うのはわかる。けれど何が違うのか、彼女にはまったくわからなかった。
今は誰もいない小さな庭。
しかし、風もないのに窓が、かたかたと動く。苑はその窓に向かって何かつぶやく。
大きなウサギの人形をギュッと握りしめ、窓際に寄り添うように、座り込む。
「……お…がい……」
カタッ
ひときわ大きく、窓が音を立てる。
後に静寂が続く。
苑は、暗い部屋の隅で、人形を強く握りしめた。