その夜、どこかの屋上にエルベリトはいた。
今夜、面白がる親友が来る気配はない。使い魔も気を使ってか、周辺にはいなかった。
エルベリトは独り、石を眺めていた。
先ほどまで神々しく光を放っていた石を……。
その光がはじけ消えた瞬間からずっと、胸が痛かった。
いや、彼女と会った瞬間からずっと痛かった。
自分にはない魂。
切に焦がれる。
一族は口を揃えて、この魂だったものを見ると、食欲がわくと、唱える。
しかし、エルベリトはどうしてもそう思えなかった。
先程まで、必死で光り続けた、生き続けた彼らを、そんな風に見ることができなかった。
触れれば、傷ついて、それでもまた希望を持ちながら生きようとした仁美。その尊さを感じるこの石をゼロにすることが、エルベリトにはできなかった。
――どうして、魂を転生しなくてはいけないのだろう?
問わずにはいられない、この問い。答えるものはなし。
人として、一つに括られてしまう彼ら。
一人も同じ“人“はいないのに。
彼女の魂は彼女だけのもの。
数多の魂と一緒にゼロに戻し、一からにしてしまうのは、彼女の魂とは二度と会えなくなるのだ。
エルベリトにとって、それは恐ろしいことだった。
それゆえ、今まで回収してきた石全て、一つも残らず、隠していた。
のびきった前髪が視界にうつる。紫が少し薄くなった自分の葵の髪。飢えの苦しみと戦いながら、頑なに拒み決意したあの時がよぎる。
近くにいて遠い存在。
感情を持っているのに、あまりにも性質の違う、我らと彼ら。
――あぁ、どうして僕は彼らになれないんだろうか……?
微かな温もりに伝わる涙。
焦がれる想いと苦しい想いが今日もまた、彼を動かす―――――――。