仁美は夢を見た。
ぼんやり薄暗い場所で、誰かが自分を呼んでいる、そんな夢を。
(誰……?)
ふわふわ浮いている思考で、そっと目を開けると、明るくなった先に久しぶりの両親の顔があった。
二人ともなぜか泣いている。
泣いて何か叫んでいた。
不思議に思った彼女だが、二人の頭上にいる人物を見て、あぁ、なんだ、と、ちょっと微笑んだ。
(やっぱり、これは夢ね。だって、パパとママが泣くわけないもの)
夢でも少し嬉しかった仁美。
手を繋いでくれる温もりが気持ちよかった。
(……それに、あんたが浮かんでいるなんて、どう考えてもおかしいわ)
フィルに乗ったエルベリトに仁美の両親は気付いていない。
エルベリトはただ静かに彼女に近づく。
目深に被っているフードから彼の様子が見えた。
(あなた、どうして笑って泣いているの?)
子供がさんざん泣いた後に見せるような笑み。
仁美の声が届いているのか、彼は仁美に何かをしゃべった。
夢だからか、意識が霧散して、うまく聞き取れない。
(聴こえないわ。あれ、そういえば、あなたの名前、一度も呼んでいなかったかも。もう一度、言いなさいよ。……エルベリト)
彼は少しだけ目を見開き、笑みが消える。
頬を伝い零れる雫が、綺麗だな、と仁美はぼんやりと思った。
彼が再び口を開くが、やはり聞き取れなかった。
夢の中でも眠くなるのだろうか、急激に眠くなった仁美は、それに委ねることにした。
(……もう、後で聞くから、そこにいなさいよ……わかった? エルベリ……ト)
薄暗い世界が、再び訪れる。
ゆっくりと瞼を閉じた瞬間、仁美の頭に小さく響いた。
――さようなら、仁美さん。
そんな、寂しそうな声が…………。