Death Murder

第一幕  〜淡色の燈(とうろう)へ贈る朱雫(なみだ)〜  |4p


 仁美は夢を見た。
 ぼんやり薄暗い場所で、誰かが自分を呼んでいる、そんな夢を。
(誰……?)
 ふわふわ浮いている思考で、そっと目を開けると、明るくなった先に久しぶりの両親の顔があった。
 二人ともなぜか泣いている。
 泣いて何か叫んでいた。
 不思議に思った彼女だが、二人の頭上にいる人物を見て、あぁ、なんだ、と、ちょっと微笑んだ。
(やっぱり、これは夢ね。だって、パパとママが泣くわけないもの)
 夢でも少し嬉しかった仁美。
 手を繋いでくれる温もりが気持ちよかった。
(……それに、あんたが浮かんでいるなんて、どう考えてもおかしいわ)
 フィルに乗ったエルベリトに仁美の両親は気付いていない。
 エルベリトはただ静かに彼女に近づく。
 目深に被っているフードから彼の様子が見えた。
(あなた、どうして笑って泣いているの?)
 子供がさんざん泣いた後に見せるような笑み。
 仁美の声が届いているのか、彼は仁美に何かをしゃべった。
 夢だからか、意識が霧散して、うまく聞き取れない。
(聴こえないわ。あれ、そういえば、あなたの名前、一度も呼んでいなかったかも。もう一度、言いなさいよ。……エルベリト)
 彼は少しだけ目を見開き、笑みが消える。
 頬を伝い零れる雫が、綺麗だな、と仁美はぼんやりと思った。
 彼が再び口を開くが、やはり聞き取れなかった。
 夢の中でも眠くなるのだろうか、急激に眠くなった仁美は、それに委ねることにした。
(……もう、後で聞くから、そこにいなさいよ……わかった? エルベリ……ト)

 薄暗い世界が、再び訪れる。
 ゆっくりと瞼を閉じた瞬間、仁美の頭に小さく響いた。

 ――さようなら、仁美さん。

 そんな、寂しそうな声が…………。

 

 

第一章 5pに続く
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