〜第一章〜

 

  十年後
――ニューへルータウン――
 ここは大都市ではないが、商業が発展し人々の交流が多く、とてもにぎわう町。あちこちに、色々な国や町の露店が並んでいる。
 それを興味津々に見ている子供がいた。マントを着ているが、歳は十歳前後だろう。
 空と同化しそうなほど明るい天藍石(ラズーライト)の髪をし、瞳はその逆の燃えるように赤い珊瑚色。それだけで、この子供がこの国の出身でない事が 一目で分かる。
「あっ、なぁなぁ、ラグ! あそこで、なんか光った。それに沢山の人だかり!」
 あれは何? と、とても興奮しながら、隣にいる人物、ラグに問いかける。
 ストレートの長髪で瞳も闇色の女性は歳は十代後半だろうか、火絆と同じくマントを羽織っているーーラグは、
「火絆(コキ)、少し落ち着け。あれは、この町で毎年恒例の行事、恩恵祭(グレースフェスティバル)。大地の恵みを得、感謝するための祭だ」
 はしゃいでる火絆(コキ)とは逆に、何にも興味を示さず、無表情で淡々と質問に答える。そのことに全く火絆は気を害せずむしろ、ヘェー、と感心しながら聞いているのでいつもの事なのだろう。
「大地の恵み……か……」
 火絆は、その祭を見ながら、少し悲しい顔をした時、グゥ〜〜、景気よく、火絆のお腹が鳴ったのだった。
  恥ずかしそうにうつむく火絆。だが、ラグはそれすらも気にしてない様子。
「お腹がすいたようだな、火絆。そこの角の店に入ろう。情報収集もかねて」
 差し出された提案に、
「いいの?」
  目を輝かす火絆。ラグがうなずくと、うれしそうに、火絆はその店へと駆けていった。
 その後ろ姿を、ラグは見守りながら、自分も店へと歩いていった。

 

 

 角の店は結構なにぎわいだった。祭で、いつもより観光客がいるのか、店は慌ただしかった。
 レトロで、少々、壁などが傷んで修理された様子はあるが、それも気にならず、中の装飾は丁寧にコーディネートされていた。
 店の人だと思われるおばさんが、入ってきた火絆達に気づいて元気よく、
「いらっしゃい! 二人だね。今カウンターしか空いてないからそこに座っておくれ」
 と言われ火絆はあたりを見渡すと、なるほど、どこもほぼ満席だった。
 なので、おばさんの言われたとおり、カウンターへと座る。
「へい、ボウズ、注文は?」
 大柄で、体躯のいいおじさん。おそらくここの主人(オーナー)だろう、手を動かし注文をこなしながら、笑顔で聞いてきた。
 どうやら、火絆達に興味があるようだ。
「えっとね、このメニューにあるサラダ全部」
「おいおい、そんなに食うのかい、っていうか、サラダだけでいいのかい?」
「うん。サラダだけでいいよ」
「変わってんな〜、ボウズは。おい、隣のべっぴんさんは、何にするんだい?」
 驚きながらもラグに向かって、注文を聞く。
「水だけでいい」
 率直にそうかえすラグ。ますます火絆(コキ)達に興味を示した主人は、いろいろ訪ねてくる。
「本当に変わっているな、お前さん達。ここの町には、観光かい?」
「えっと、探し物をしているの」
「探し物?何をだい?」
「あんた! そう子供に根掘り葉掘り聞くんじゃないよ!」
 口を動かさず、手を動かしなさいと、さっきの元気なおばさんが奥さんなのだろう、旦那の耳をつねり言う。
「いてててて。わかった、わかった。ボウズ、すまんな。ゆっくりしてってくれ」
 そういって、別の方の客に注文を取りにいった。
「本当、あいつは目を離すとこれなんだから。坊や、すまなかったね。はい、サラダだよ」
「ううん。別にいいよ」
 なれてるし、そういいながら、よっぽどお腹すいてたのだろう、すごい速さで食べ始める火絆。それに、感心したおばさんだったが、他の客に呼ばれ、ゆっくりしていきなね、と言い残し、その場を離れていった。
 火絆も食べる事に熱中する。その様子をラグは無表情で見ながら、他の客の会話を聞いていた。
 特に、ラグ達からかなり離れた、三人の男達の会話に。
 その三人は商い仲間らしい。そのうちの一人が、ここより西の町からここまで来る途中の出来事を語っていた。
「ほんとに見たんだって、また『咒(ジュ)』が出やがった」
「ほんとか?こんな近辺まで出やがったのか。たくっ、退治屋はなにしてるんだか。おい、どこら辺で見たんだ?」
「西の山脈の麓のあたりだ。まだ小さかったから、音をなるべく立てずに逃げてきたぜ。『呪(トウ)』じゃなくてよかったぜ。奴らだったら、おれはただじゃすまされなかった」
 と、震える声で、恐ろしかった、とその男が言う。その隣の男は
「まぁ、大事に至ってないんだからよかったじゃねえか。ここらの町は、領主達が結界みたいなもんで奴らを遠ざけてるんだ」
 うかつに入ってこれないだろうよ。震えている男の背に方をまわし、バシバシ叩きながら励ます。
 すでに三人は酔っぱらっているようだ。飲もう、飲もうと言い合いながら、酒を追加していた。

(……西、か……)
 ラグは、その者達の話を聞きながら思考をめぐらす。そして、食べ終わって一息ついている火絆に、
「そろそろ、出る」
 と言い、立ち上がる。
「うん」
 火絆もラグの後に付いて店を出た。

 

 

 店を出て、まっすぐ西に向かうラグに火絆は、
「なにかあったの?」
「あぁ、西の麓に『咒(ジュ)』が出たようだ」
 火絆の問いに答えるラグ。
 『咒』とは、山が荒れ土地が廃れ、すみかを失った精霊達が、嘆き悲しんで変化したもの。それらは形を失って、生き物達の負の感情を吸収し、生物や植物に害をもたらすようになる。それが近くにいる。
 その答に驚く火絆は、じゃあ、
「今すぐ、ここら辺に「恍(コウ)」をはって、早く西に向かわなきゃ」
 慌てて、準備を始めようとする火絆に、ラグはなおも無表情に語る。
「落ち着け。ここら辺は、ここの当主が守っている。町の人間の話を聞く限り、半・(ハン・)洸歌者(アリスタ)だが、『咒』程度なら火絆の氣を使わなくとも、大丈夫だ」
「……わかった」
(ラグはすごいな。すごく頭よくて、強いし、でも頼り過ぎちゃダメ。僕も自分のできる事をがんばろう)
 そう決心し、火絆(コキ)はラグより一歩出る。
 そしてラグの手をひく。
「じゃあ、早く行こう。西の麓へ!」

 

 
第二章へ続く……
前へ  目次  次へ
copyright(c)2010- Tukuru Saima All right reserved.since2010/2/5